大坂工務店の代表取締役・大坂 公吉さんから頂いた二枚の名刺にはそれぞれ、「社寺建築」と「もくもくラボラトリー」と書いてあります。
お寺や神社の新築・改修・補強を行う傍で展開する「もくもくラボラトリー」は、大坂工務店のオーダーメイド家具専門店としての屋号。家具を展示・販売するショールームを設け、ギャラリーやワークショップなども随時開催しているそうです。
▲明るく開放的な雰囲気のショールーム
-腐らない木材を作るために-- 木への深い愛情と飽くなき探究心
豪快な笑顔と阿波弁の軽快なトークが印象的な大坂さん。木への深い愛情と情熱は並大抵のものではなく、お話が尽きません。
「はじめはね、『もくもくラボラトリー』と称して、どうすれば腐らない木材を作れるかという研究していたんです。お寺や神社の木には長持ちしてもらわんと困るでしょう。100年以上は持ってほしい。そのためにどうしたら良いかと常に考えてきました。木は水分と酸素、養分を含む素材。その中の養分を取り除けばバクテリアが入らないので腐りにくなる、というのが基本的な原理。そのために何をすれば良いかと、試行錯誤してきたんですよ」
ショールームの上にある事務所の一角には、木に関する情報をまとめたものや木から抽出した成分のサンプルなどが置かれていました。しかし、それらの研究は事業としてではなく、あくまで“趣味の一環”として行なってきたのだと、大坂さんは笑いながら話します。
「色々な実験を重ねてきました。新月の日に伐採した木は長持ちするという説を実際に試してみたことも。当時NHKの番組で、新月の時に太陽のエネルギーが地球の酸素を月まで吹き飛ばしたってニュースを目にしたんです。月面に酸素の欠片がくっついていたらしいですよ。新月の時(太陽と月と地球が一直線に並ぶ)は月の引力が強くなるんです。それで吹き飛ばされた酸素が月に吸引されてしまったというわけ。じゃあ、水分に同じ現象が起こっていてもおかしくないなと。水分の少ない新月の木が長持ちするという根拠はそこにあります。実際に試してみた結果、カビの生えない木材ができてね。やっぱり仮説は間違ってなかった」と、嬉々として語ってくださった大坂さん。
木材を長持ちさせることにおいて、カビが生えないかどうかは大きな問題。
木の加工の全てを自社で行う大坂工務店では、新月伐採を行なったり水中乾燥という(木を水中につけた後に乾かす方法)手法を用いたりして、カビの生えにくい丈夫な木材を生産しているそうです。
「商売やお金が好きだったら良かったのにね。木が好きやけんしょうがない」と言う言葉に、取材に同席された、大坂さんのご子息であり大坂工務店の専務取締役でもある湯浅 孝臣(ゆあさ たかおみ)さんも、思わずフッと笑っていらっしゃいました。
▲大坂工務店の専務取締役・湯浅 孝臣さん
-今だから注目してもらいたい、木の多彩な効果
研究を続けるうち、木の有効成分に関する知識を深めていった大坂さんは、改めて木が人間の体にとっていかに有用であるかということに気付いたそうです。
「木には殺菌・消臭・調湿、それに人間をリラックスさせる森林浴の効果や、有害性物質と結合して取り込んでくれる作用、免疫機能を活性化させる作用なんかもある。問題の多い今の日本を考えると、木が健康素材であることをもっと推していきたいですね。天然の木に囲まれて木の香りがする生活を送れば、健康で快適な暮らしができます。今、世間を騒がせている発達障害とか、虐待なんかとの因果関係も実はあるんじゃないかと思っとるんですよ」
大坂工務店の家具は一般的な塗装を行わず、有効成分を殺さないオイルなどを使用して木の表情を変えているのだそう。
「白や黒など色がついたオイルもあります。これを塗りこむことで木の“衣装”は変えられるけど、質感や有効成分は失わずに済むんです」
-宮大工への道のりと家具作りへの取り組み
宮大工の家系に生まれたわけではなく、元々は自動車の整備士だったという大坂さん。
「整備士の後は、大阪で建物の造作屋(建物の内部を構成する部材や設備を作る仕事)をしました。そのうち香川で大工の手伝いをする機会があったんですが、これがまた面白くて! 徳島に帰って大工修行をすることに決めました。その修行中にたまたま宮大工さんと会うきっかけがあったんですが、その時に「自分の道はこれや」と。それで、藤原流という流派の宮大工さんの門を叩くことになるんですが、その門が開くまで1週間は座り込みで弟子入りを懇願しました。そういう世界やったんです」
文化財の修復記録など色々な書物を読み漁り、独学でも勉強したという大坂さん。しかし、いきなり社寺建築だけで食べていけるほど甘くないという現実に直面し、宮大工の駆け出しとして仕事を行いながら、一般住宅の建築も並行して行なっていたそうです。
「そうこうするうちあれもこれもできるって、やれることとやりたいことが増えていったんです。そうして、宮大工の技術を使って家具や建具なんかも作るようになりました。実際、うちの家具にもそういった技術がたくさん使われていますが、その精度を高めるためにどんどん設備投資して、できることを増やし続けていった結果、木だけじゃなくガラスの加工までできるようになってしまったという(笑)」
▲敷地内にある木材の加工所。様々な大型機械が使用されている。
仕入れからデザイン、加工における全ての段階をワンストップで行なっている大坂工務店。
木材に関しては原木を見に行って自分で切ったりもすることもあるのだとか。
原木を直接仕入れることで大幅なコストカットが実現できるだけでなく、端材を使った小物や雑貨作りなど、派生商品の制作も可能に。
近年は息子さんと一緒に新商品の開発も手掛けているそうです。
-木の潜在能力を最大限に活かすということ
大坂工務店が生み出す家具の特徴は? という問いに対して、
「自然のものを最大限に活かし、さりげなく美しく見せるのに注力してるところ」という回答。
宮大工職人の技術が盛り込まれた家具には、釘やビスなど金具の一切が使われず、自然のままの形を極力残すよう最低限の加工しか施さないそうです。
▲金具を使用せず、木だけで高い強度を実現する宮大工職人の技術があちこちに光る
「例えばテーブルやったら、自然のままの形を活かすよう一枚板を天板に持ってきます。味付けするのは主に脚の部分。僕らは天板一枚に対して最も違和感のない脚を考えるんです。形やデザインを一個一個変えてみながら、ぴったりなものを探し出す。木目が綺麗に見える角度も計算してね。で、その上で強度を最大限にするんです。出来るだけ長持ちするように、寸分の狂いもないように。その上で“さりげなく”美しく見せるっていうのがドヤ顔ポイントやね(笑)。まあ、行き当たりばったりなやり方と思われるかもしれません。量産が難しいという現実もあるしね」
「木の特性を加味して考えると、細工の仕方も全然違うものになってくる。例えばね、広葉樹と針葉樹でも違うんですよ。広葉樹は長さが縮まるし、針葉樹は幅が縮まるっていう特徴があってね」……お話を続ける中で何度も、マニアックで興味深い木のトピックが浮上してきます。
「ヒット商品を作って、ある程度の量産体制に入れたらいいなとは思っていますよ。でもね、お客さん目線が大切なのは確かやけど、自分が作ってて違和感のあるものは絶対売りたくないし、結局売れないんですよ。やっぱこれ良いなって思えるものやないと。
『この家具、お客さんに渡すの惜しい!』って思ってしまう位のね。
まあ、でも今は現場の手配や作るものの全般は大体息子に任せとるんです。
僕にとっては半分道楽みたいなものになってしまったからね(笑)」といってまた、大坂さんは豪快な笑顔を見せてくれました。
安価である程度の品質の商品が買えてしまう時代。「嫁入り道具」として家具を転居先に持ち込むなんてケースも少なくなり、古くなったら買い換えるという考え方が一般的になってきています。オーダーメイド家具は一般的な量販店の価格と比べれば高価です。しかしながら、日本が誇る社寺建築の技術によって100年以上生き続ける家具、と思えばその価値は十分過ぎるほどあり、ひとつ一つの作品には大量生産されたものでは絶対に味わえない利点や美しさが詰まっています。
自然との調和を図り健康効果まで考えられた、まさしく世界にひとつだけの家具で、木の温もりと香りに包まれた生活を送ってみたい!
取材を終えて、筆者が強くそう思うようになったのは事実です。
大坂工務店
公式HP:http://www.oosaka-koumuten.jp/
もくもくファクトリー公式HP:https://www.mokulabo.net/
住所:徳島県阿南市羽ノ浦町 古毛覗石37番地の12
TEL:0884-21-8670
FAX:0884-21-8671
All Photos by Youichi UeDA
・ライタープロフィール
濱安紹子(はまやす しょうこ)
猫と布団をこよなく愛する、三足の草鞋ライター。
音楽メディア、WEB系広告代理店での勤務を経てカナダ・トロントへ。
現地の日系出版社にてライター業に携わった末、帰国後よりフリーランスライターとしてのキャリアをスタート。
その傍らで自身の音楽活動、酒好きが高じてバー営業も行っている。
・カメラマンプロフィール
Youichi UeDA
セガ・エンタープライゼス、ソニー・コンピュータエンタテインメントで 14 年間サウンドプログラマとして活動。
現在は KKBOX でデータベースエンジニアとして勤務。本業の傍ら 2017 年より「写心」撮影の業務を開始。ダンスのワークショップを中心に鋭意活動中!https://www.flickr.com/photos/youichi_ueda/